ドルフィーのバスクラを聴け

ジャズ(Jazz)を中心とした洋楽を、アップルミュージック(Apple Music)で聴けるように紹介していきます。

マル・ウォルドロン(Mal Waldron):侘び寂びの調べ

本国よりもヨーロッパ・日本で人気のピアニスト

マル・ウォルドロンとの出会い

エリック・ドルフィーEric Dolphy)との出会いについては以前述べました。アルバム「Last Date」と偶然出会い衝撃を受けました。エリック・ドルフィーのことについてもっと知りたくて、スイングジャーナルなどで調べることになります。エリック・ドルフィーの他のアルバムも聴きたくなるわけですよ。次は何を聴こうか、そもそもエリック・ドルフィーって何者?とかなんとか調べ回るわけですよ。そうすると、すぐに「At the Five Spot Vol.1, Vol.2」というアルバムが絶賛されていることに気づきます。ジャズ喫茶でリクエストして聴いてからなんてまどろっこしいことはせずに手に入れます。そして聴きました。もちろん感動モノでした。ドルフィーはもちろんブッカー・リトルBooker Little)も素晴らしかったのですが、もう一人、ピアニストに妙に惹かれたのです。それがマル・ウォルドロンMal Waldron)だったのです。

f:id:westwind0813:20160217142052p:plain

引用元:http://musicaenespiral.blogspot.jp/2014/05/mal-waldron-soul-eyes-1997.html

 ジャズ・ピアニストというものは、華麗なテクニックで饒舌に弾きまくるものだと思っていましたが、「ファイブスポット・セッション」でのピアノは、饒舌とは言いがたく、むしろ「トツトツと」しかしタッチは力強い、奇妙なフレーズを繰り返す、それでいて気持ちがグ~っと引きこまれていく。不思議な魅力を持ったピアノだったんですね。一度聴いて忘れられないピアニストとなりました。

せっかくですから、聴いてください。「Eric Dolphy at the Five Spot Vol.1」から「Fire Waltz」

 

アット・ザ・ファイヴ・スポット VOL.1

アット・ザ・ファイヴ・スポット VOL.1

 

 

Fire Waltz

Fire Waltz

 ビリー・ホリデイのピアニスト

マル・ウォルドロンは「レフト・アローン(Left Alone)」のピアニストとして有名なんだということをやがて知りました。彼はビリー・ホリデイの最後の専属ピアニストとして彼女と行動をともにし、そのツアー中にこの曲を作曲、ビリー・ホリデイが作詞したとのことです。しかし、ビリー・ホリデイはこの歌を録音することなく亡くなってしまうのです。悲しい話ですね。彼女を追悼するためにこのアルバムは作られたのです。

では、「Left Alone」から「Left Alone」と「Cat Walk」の二曲をお聴きください。

 

レフト・アローン +6

レフト・アローン +6

 

 

Left Alone

Left Alone

 

Catwalk

Catwalk

 

 このアルバムは本国アメリカではマイナーな存在で、日本だけで突出して人気があるということはよく知られた逸話です。日本人の情感にあっているんだという説もあります。

ジャズの精神性を継承する

ジャズという音楽は、かつては、形式として「こういう形で展開される音楽」という定義付けがありました。バップ時代まではかろうじてその形式を保っていたものが、モーダル・ジャズ、フリージャズと多様に発展していく中で、形式論より精神論での継承が重要になってきたように思います。

そういう観点で、私は、マル・ウォルドロンセロニアス・モンクThelonious Monk)の精神性における継承者であるという持論を持っています。もちろん彼とモンクとの接点は何もなく、彼がモンクのことを語っているという話も聞いたことはありません。ジャズ評論家にもそのようなことを述べている人は聞いたことはありません。ジャズ理論的にもきっと関連性は薄いのかもしれません。しかし、精神性が非常に近いものを感じます、それ以外にも卑近な例ですが、モンク作曲の「Round Midnight」とマル作曲の「Left Alone」の曲調の類似、これは精神性の類似にあると思っています。

くだらないたわ言はこれくらいにして、1983年リリースの「Breaking New Ground」というアルバムから二曲お聴きください。「Suicide is Painless」と「Gymnopedie #2」です。

www.amazon.co.jp

 

Suicide Is Painless

Suicide Is Painless

 

Gymnopedie #2

Gymnopedie #2

 ヨーロッパに定住

マル・ウォルドロンは1965年に渡欧し、やがてイタリアに定住、1980年代にベルギーのブリュッセルに転居、二度とアメリカに居を移すことなくブリュッセルで生涯を閉じることになります。演奏活動もヨーロッパ各地や日本が中心でした。二度目の妻が日本人写真家の彩紋洋実であったこともあり度々来日しています。

この「アメリカを捨てた」行動は、やはりジャズの精神性に重きを置いた故の彼の判断であったのかとも考えます。

モンク~マルの精神性を継承するもの

マルがモンクの精神性を継承するならば、そのマルの精神性を継承する者はいるのかという疑問が起こります。私はそれをジャッキー・テラソン(Jacky Terrasson)に見出しています。注目しているピアニストです。2010年リリースの「Push」から「Beat It / Body and Soul」と「'Round Midnight」の二曲をお聴きください。

 

Push

Push

 

 

Beat It / Body and Soul

Beat It / Body and Soul

  • ジャッキー・テラソン
  • ジャズ
  • ¥250

 

'Round Midnight

'Round Midnight

  • ジャッキー・テラソン
  • ジャズ
  • ¥250

 遺作はアーチー・シェップ

本当に偶然なんですが、マル・ウォルドロンの遺作は、私がドルフィーと並ぶほど好きなサックス、アーチー・シェップArchie Shepp)との共演でした。シェップもその精神性の高さで尊敬に値するアーティストです。そんなシェップと最後を共にしたマルはジャズの精神を体現し切ったピアニストだったと思います。

遺作「Left Alone Revisited」より「Easy Living」と「I Only Have Eyes for You」

 

Left Alone Revisited

Left Alone Revisited

 

 

Easy Living

Easy Living

 

I Only Have Eyes for You

I Only Have Eyes for You

 次回はアーチー・シェップです。