ウイントン・マルサリス(Wynton Marsalis):ジャズを押し上げた天才
ジャズの混乱を一気に収束させた
音楽をするために生まれ育つ
ウイントン・マルサリス(Wynton Marsalis)は1961年にニューオリンズに生まれ、音楽一家の中で成長しました。「Wynton」という彼の名前は父親のエリス(Ellis Marsalis)がウイントン・ケリー(Wynton Kelly)にあやかって名付けたということです。ちなみに兄のブランフォード・マルサリス(Branford Marsalis)の「Branford」はクリフォード・ブラウン(Clifford Brown)にあやかってるそうだが、クリフォードがブランフォードとどうつながっているのかよくわかりません(汗。
と、まあ、マルサリス一家のことや、ウイントン・マルサリスがいかに神童であったかなどという話は、まさに人口に膾炙しているということで、ネットでも、ジャズの本でも読んでいただくとしましょう。
引用元:https://www.youtube.com/watch?v=ABM6VphQmJk
ジャズは多様化で混乱していた
彼がニューヨークのジャズ界に忽然と姿を表したのは1980年になろうかという頃でした。彼の登場はジャズ界に大きな衝撃を与えたのです。
1969年にマイルス・デイヴィス(Miles Davis)がアルバム「Bitches Brew」を発表してから1970年代のジャズ界はある意味混乱していました。ウェザー・リポート(Weather Report)やリターン・トゥ・フォーエヴァー(Return to Forever)の成功によるフュージョンの台頭によりコマーシャリズムが一気にその路線を推し進め、伝統的なバップジャズは金にならないとビッグネームすらニューヨークでは仕事場を失う有様で、ヨーロッパや日本へのツアー等でしのいでいるという状況でした。また、そういうコマーシャリズムに反発する連中がマイナーレーベルを立ち上げたり、自分たちの仲間うちでプロデュースする団体を立ち上げるような動きもあちこちに見られました。加えて、フリージャズの存在が混乱に拍車をかけていました。
そんな混沌とした1970年代から1980年代に移ろうとする矢先にウイントン・マルサリスは突如ニューヨークに現れたのです。彼のデビュー・アルバムを聴いていただきましょう。「邦題:マルサリスの肖像(Wynton Marsalis)」から「Rj」と「Sister Cheryl」の二曲をお聴きください。
天才はハタチ過ぎたら~ じゃなかった
ハタチそこそこの若者がグラミー賞を取っちゃいました。それもジャズだけじゃなくクラシックも!二部門同時受賞なんて他にいたんでしょうかね?まさに天才出現です。
よく言われていることですが、彼は単に天才というのではなく、研鑽することの重要性を誰よりもわかっていてそれを幼い頃から実践し続けてきた、本当に裏付けのある天才というのが凄い。最初は「生意気」と見る向きもあったということですが、彼の頭の良さ、音楽に対する真摯な態度、真面目な人柄等々でそんな見解はすぐに払拭され、一気にビッグネームに上り詰めたのです。
混乱に終止符を打つ
彼のジャズに対するアプローチは、伝統的なジャズを継承するところから出発しています。それは、生地ニューオリンズをこよなく愛する彼の郷土愛と、多くのジャズの先人達を心の底からリスペクトし、「彼らに追いつきたい」という、ひたすらジャズを愛する心があるからです。
この彼の動きはジャズ界全体を巻き込み始めます。日本では「新伝承派」などという妙なカテゴリーまで生み出す始末。でも、確かにジャズ界はウイントン・マルサリスの出現によりある種の落ち着きが生まれました。前回のチコ・フリーマンは近しい関係にあっただけにいち早くその気分に飲み込まれたのかもしれません。
もちろん、その変化には数年を費やすことになるのですが、1980年代の中旬には新たなジャズムーブメントとも言える若い力が現れるようになり、もちろんその中心にウイントン・マルサリスがいたのです。
1991年リリースの「Standard Time, Vol. 2: Intimacy Calling」から「I'll Remember April」と「Yesterdays」の二曲をお聴きください。
- アーティスト: ウイントン・マルサリス,ボブ・ハースト,レジナルド・ビール,マーカス・ロバーツ,トッド・ウイリアムス,ウェス・アンダーソン,ジェフ・ワッツ
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ジャズミュージシャンを超えたジャズミュージシャン
その後のウイントン・マルサリスは、ジャズのコンセプトをあらゆる音楽に持ち込む作業を延々としているように思えます。多くのアルバム制作に携わってきていますが、斬新な手法を無理なくサラッと取り入れる姿は、もはや一人のプレイヤーではなくディレクター以上の存在になっているのです。着実に音楽の質を一段階押し上げている作業をしているのです。1999年の「Big Train」からお聴きください。「Observation Car」と「Bullet Train」
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史上最も偉大な音楽家になるかも
音楽の芸術性はもちろんのこと、それ以上にエンタテインメントとしての音楽をどのように高めていくか、それも芸術性をも並行して高めていく。そのことを彼だけは知っているような気がします。
同時に音楽教育にも熱心に取り組んでいるようです。ネットには彼が子どもたちに実践教育している姿がよく写っていますが、本当に真摯に、子供だからと手を抜くことなく指導している様子があり「本当に音楽が好きな人なんだな」と思わせます。
まだ五十代半ばの彼は今後どこまで音楽界を変えていくのだろうかと思わせます。冗談抜きで史上最も偉大な音楽家になってしまうのかもしれません。
2008年リリースのコンピレーション・アルバム(1983年~1999年)「Standards & Ballads」より「Stardust」と「I can't Get Started」
彼は、そのキャリアの出発点で、クラシックとジャズというまるで異なる二部門をこなし、あろうことかその両方でグラミー賞受賞という、カテゴリーを越えるアクロバットをやってのけました。
事ほど左様に彼にはカテゴライズという概念がないのです。
私生活でも様々な分野のトップミュージシャンと親交があり、中には一緒にやっちゃえとジョイントでコンサートをしたりアルバムを制作したりしています。
私の好きなアーティストの一人であるエリック・クラプトンともやってます。「Wynton Marsalis and Eric Clapton Play the Blues (Live from Jazz At Lincoln Center)」から「Ice Cream」と「Layla」をお聴きください。
- アーティスト: ウイントン・マルサリス&エリック・クラプトン,ウイントン・マルサリス,エリック・クラプトン
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この「Layla」はYouTubeでも見つけましたので、貼っておきます。めちゃいけてます。
Wynton Marsalis & Eric Clapton - Layla
いやはや凄いお方です。
次回は、兄のブランフォード・マルサリスです。