トリオ考
最小単位の完成形
トリオでの組み合わせ
ジャズにおけるトリオというのは、ピアノ+ベース+ドラム、という、所謂「ピアノトリオ」が一般的です。しかし、有名なオスカー・ピーターソン・トリオ(Oscar Peterson Trio)は長い期間、ピアノ+ギター+ベースという組み合わせでした。また、例えばギタートリオという呼称だと、ギター+ベース+ドラムという組み合わせが頭に浮かびます。ソニー・ロリンズ(Sonny Rollins)はサックス+ベース+ドラムというトリオを得意としていたことは以前書いた通りです。
引用元:http://www.ducdeslombards.com/scripts/hier_photo.php?mois=2011-10
ピアノトリオ発生の必然性
以前、バド・パウエル(Bud Powell)の稿で書いた通り、ピアノトリオという形態はバド・パウエルが創始者であるということです。それ以前のジャズは、管楽器をメインとするバンド編成が主で、ピアノ、ベース、ドラムはリズム隊としての役割でした。
歴史的にジャズは、元々黒人の葬送音楽が起源と言われ、それがマーチングバンド、ダンス音楽として発展していったという経緯がありますから、音楽を聴かせるというよりも、パレードやダンスの音楽として、主体は音楽以外のところにあったのです。それが、ビバップの発生によって、音楽に主体が移行し、演奏の技量が重視されるようになり、演奏中にソロを挟むことが定型化されていくようになります。それでも初期は管楽器のソロが主体でしたが、ピアノ、ドラム、果てはベースまでソロをとるようになり、ビバップ・ジャズのスタイルが完成したのです。
こうなってくると、ピアノ、ベース、ドラムもリズム隊として縁の下に隠れていたところからフロントに出てくる機会を与えられたことになり、当然リズム隊だけでの演奏スタイルが可能になるという発想がピアノトリオへとつながります。
何故かエルトン・ジョン
私自身の話になりますが、ジャズを聴きだしたのは今から40年以上前、大学生の頃でした。それまでも洋楽は好きで幼いころから聴いてはいました。私がピアノトリオというシンプルな形式に初めて出会ったのは、実はジャズではなくエルトン・ジョン(Elton John)でした。偶然手に入れたエルトン・ジョンのスタジオ・ライブ盤がエルトン・ジョンのピアノとベース、ドラムだけの構成でした。これが非常に気に入ったのです。私がジャズに興味を持った一因としてこのアルバムの存在があります。いい機会ですからちょっとお聴きください。「17-11-70」というアルバムの「Honky Tonk Women」と「Can I Put You on」の二曲です。
これを聴いて思ったのは、今更ながらなんですけど「演奏が重要なんだ」ということです。それまでは、洋楽や歌謡曲などを聴くときは「歌を聴いていた」んですよ。もちろん演奏も「カッコイイな」とか思って聴いてはいましたが、演奏がそのアルバムや曲を左右しているという気持では聴いていなかったと思います。このことは、先ほど述べたジャズは元々演奏が主体ではなく主体はダンス等にあったということと構造的には一緒なんでしょう。
クリーム(Cream)やジミ・ヘンドリックス(Jimi Hendrix)が小規模な編成で演奏していたのも同様ですよね。ジャズ以外の洋楽でも、演奏に主体が移ってくると編成が小さくなる傾向があります。
Duoという形態も同様
またまた私事になりますが、私がやっていたジャズ喫茶「Jazz 音の郷」では毎週土日の夜はライブをやっていました。店が小さいこともあってDuoが主体でした。これは出演するミュージシャンにとってはいささか酷でありました。もちろんニューヨークの第一線でやってるミュージシャンほどの力量はありませんが、みんな一生懸命やってくれました。Duoという形態では「手抜きが出来ない」んですよね。
「星に願いを」 When You Wish Upon A Star HD
これは今から4年前の映像ですから、現在は二人とももっと上達しています。特にベースの大倉甲くんは「音の郷」のライブが刺激になって「もっと上手くなりたい」と、この映像の後必死に練習を積んで今では関西の中堅ベーシストとして活躍しています。ギターのneaさんは、当時でも関西屈指のギタリストで注目されていましたが、現在ではボーカリストが「一度はneaさんのギターで歌いたい」と憧れるギタリストとして大活躍です。
このようにDuoでやることは手が抜けないのでミュージシャンにとってはキツいけれどもやりがいもあるしスキルアップにつながります。これはトリオも同様で、演奏を聴かせるには有効な形態と言えます。
私が好きだったピアノトリオアルバム
バド・パウエル以降のピアニストならば必ずピアノトリオの経験はあるでしょう。また、リーダーアルバムをレコーディングするほどのピアニストならピアノトリオによるアルバムを一枚は残しているでしょう。従って、ピアノトリオの名盤は古今東西沢山存在しています。私がジャズを聴き始めて一番最初にはまったピアノトリオアルバムがあります。「Sonny Clark Trio」です。そのアルバムから二曲聴いてください。「Softly as in a Morning Sunrise」と「I didn't Know what Time It was」です。
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次のアルバムもよく聴きましたね。Phineas Newborn Jr.の「A World of Piano」です。このアルバムから「Lush Life」と「Daahoud」の二曲をお聴きください。
A WORLD OF PIANO ! ア・ワールド・オブ・ピアノ [12" Analog LP Record]
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奇しくも両アルバムともベースはポール・チェンバース(Paul Chambers)でドラムはフィリー・ジョー・ジョーンズ(Philly Joe Jones)ですね。いかにこの二人が活躍したかよくわかります。ピアノ・トリオという形態が根付いたのはこの二人の活躍に負うところが大きかったのかもしれません。
ということで、ミュージシャンを毎日とりあげていくのに少し飽きてきたので、しばらくは毎日話題を探して書いていくことにします。